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「……24か」
「はい」
三回のコールの後、聞きなれた声が携帯から発せられる。
「報告をしろ」
「資料をすべて確認、後はルーシェの屋敷に向かい依頼人と話をするだけです。許可を」
「いいだろう、許可する。仕事の期間は無制限。指示が来るまでこなし続けろ」
「わかりました。ところで……」
「ところで、なんだ?質問か、疑問か?」
「疑問です」
「疑うな、考えるな、24」
「……ッ」
「おまえはただ、仕事をいかにうまくこなすかを考えればいい」
「……わかっています。すみません、失言でした」
「うむ、切るぞ」
プチンと音を立てて、彼と俺との繋がりが切れる。
ツーツーと、携帯の機械音が定期的に耳に響く。
「……わかってたさ」
携帯を耳に当てたまま、俺は自嘲的にそう溢した。
俺に任務に対する疑問は許されない。
人間としての思考は許されない。
ただ任務の達成だけを考える、それが俺に唯一許されたこと。
だから――
笑顔も
涙も
怒りすらも。
俺から出るそれはすべて、任務のための偽物の仕草なのだ。
「……行くか」
携帯をポケットにしまい、潰れた茶封筒を左手で持って、俺はそのまま喫茶店を出た。
クーラーのよく効いていた店内から、むわっとした湿気で溢れる外へ出るのは少しばかりの不快感を伴うもの。
俺は右手を上着のポケットに突っ込み、ごそごそとライターを取り出すと、そのまま路地裏に入って茶封筒に火をつけた。
パチパチパチと紙の焼ける音がする。
俺は段々と火と共に黒焦げていくそれを地面に落とし、革靴を履いた足でぐしゃりと踏み潰すと、ふっと一度鼻から息を吐いてその場を後にした。
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