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「……ここ、だな。うん、間違いないな」
喫茶店を出てからおよそ10分の徒歩。
住宅街を抜け、人通りの少ない路地にさしかかり、ふと地面から顔を上げてみればそれは目の前に広がっていた。
資料に書いてある住所を確認するまでもない。
こんなでかい屋敷、それこそ大富豪と名のつく者にしか建てられないだろう。
「……えーと」
これほどの巨大さを誇る建物となると、実物を見るのは初めてなのでどうやって入ればいいかわからない。
しばし、俺は右手を顎に当て思案する。
俺が声をかけられたのは、丁度そんな時だった。
「……出雲さまでしょうか?」
「ん」
声のする方に振り返ると、そこにはだいぶ年のいったじいさんが立っていた。
まあ、声をかけられる1分前には気配を察してはいたが。
かと言って、気配を察したからと無闇に行動を先取りするのは相手を警戒させるだけだ。
あくまで、相手に行動をさせてから、それに合わせてこちらも行動を起こす。
よほど切迫した状況でもない限り、それが基本スタンスだ。
「ルーシェ家の執事、マジェスタでございます。依頼を受けてくださる出雲さまでお間違いは?」
――そう。
俺はこの国では出雲 尊(みこと)と名乗っている。
もちろん本名ではない。
身分証もパチモンだ。
「そうです。ではあなたが依頼主ですか」
「はい。お嬢様のボディーガードを依頼させていただきました」
――スッ……。
その言葉と同時に俺は『仮面』を被る。
もう人であるものを全て失った俺には必要不可欠な『人の仮面』。
「わかりました、ではまず屋敷におじゃまさせていただきましょう」
ニコリ、と笑顔を浮かべる。
さて、俺の初仕事のスタートだ。
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