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美味しい料理に舌鼓を打ちながら、少年が問いかけると、美貌の麗人は花が咲いたかのように微笑ながら言った。
「リオは今日、この土地を卒業するのよ」
ここを離れる為の荷物は彼女が昨晩のうちにまとめておいたようで、少年は何の準備も、それこそ心の準備も整える間も無いまま、物心もつかないうちから暮らして来た(我が家)を離れる事になった。
少年の心の内を想像したとすれば、住み慣れた場所を離れる寂しさはあるものの、家族であるグウィネスと一緒であるから、郷愁よりも知らない土地や会った事の無いグウィネス以外の人間に対する好奇心の方が勝っていたに違いない。
しかし、彼女と肩を並べて見慣れた獣道を歩くうちに、水浴びをした小川、夜明けまで彼女から昔話やおとぎ話を聞いたり、その感想を話あったり、剣の稽古をつけて貰った場所…そういえば、稽古でグウィネスから初めて一本取る事が出来たのはいつの事だっただろうか。
数え切れない思い出が蘇って来て一抹の寂しさの影が少年の胸をよぎったのは仕方のないことなのだろう。
その時、少し前を歩くグウィネスが立ち止まった。
「どうしたの?」
そう尋ねた少年にもグウィネスが立ち止まった理由がすぐにわかった。
何か動物の気配がする。
しかも敵意とは言わないまでも、好意的ではない気配である。
その数は十以上。
「……遅かった……あなたが初めて遭う人間と戦う事になるとはね……」
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