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彼女には珍しいことに気まずい表情だ。
「初めて遭う人間?」
少年は端正な顔を少しだけしかめて見せた。
様々な疑問符が頭に浮かんだが、今は考えないように努めた。
まだ視界にこそ入らないが、すぐ先に味方でない者達が気配を消そうともせずに歩みを進めているのである。
けれど、こちらに気付いた様子もない。
こういう場合はやる事は決まっている。
相手の思惑が判らないうちは、
『息を潜めてやり過ごせ』
である。
二人は草の繁る獣道の両側にそれぞれ身を潜めた。
グウィネスが教えてくれた多くの遊びの中には足音をたてずに森の中を走りまわったり、息を潜めるどころか、殺すように、かくれんぼをしたりしたものだ。
こんなときに遊びも役に立つんだな……などと考えていると、今度は耳にはっきりと、草や枯れ葉を踏む音が聞こえて来た。
足音は徐々に近づいて来て、ついに少年の目にグウィネス以外の人間が初めて映る事になったのである。
男達は皆逞しい体つきで、全員が帯剣し、さらに全員が部分的に金属で補強された服を着ている。
あれが鎧というものだろうか?
「おい!道があるぞ!」
「シッ!大きな声を出すな!」前を歩く二人がそんな会話をしているのが聞こえる。
道の存在を知った彼らの緊張は加速度的に増したようだ。
顎に髭をたくわえた男が獣道に座り込み、何やら道を調べている。
まるで狩猟をしているかのようだった。
少年も兎や鹿、猪などを狩る時には、あんなふうに足跡や痕跡を調べたものだったからよくわかる。
眼球だけの動きで道の反対側に隠れているはずのグウィネスに目を向けたが、少年にも彼女がどこにいるのか全くわからなかった。
これなら見つからずに済みそうだ。
まだ、道を調べている男が小さな声で他の男達に説明する。
「近いぞ……女と子供だな。まだ新しい足跡もある。情報に間違いはなさそうだ。付近を警戒しろよ。二人とも逃がさないように捕らえるんだ。慎重にな!!」
驚いた。
ぴったり当たっている。
しかも、彼らがここに来訪した目的は自分かグウィネスか、または二人を何らかの理由で捜しているのだ。
庭にある小さな畑では、採れる野菜にも限りがある。
また、服や様々な生活用具を調達するためにグウィネスは時折、街に出掛けていた。
他人の目に触れた事のない自分が狙われる事は考えられない。
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