‘わすれもの’

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「ヒロ、ご飯どうする?」いつものようにノックもせずに入る母。「ノックぐらいしろよ!」と怒鳴る僕。このやりとりは中学時代からずっと続いている。僕は箱の事はおいといてご飯を食べる為にキッチンへと向かった。冷静沈着な父とおとぼけ天然の母、そしてやけに僕になついてる妹の四人での食事。これが最後かと思うと色々な記憶が頭をよぎった。それは僕がまだ中学二年生の時、そう反抗期の時に一度だけ父に本気で怒られた事があった。それは僕が母を「ババァ」と呼んだ時だった。父はいつもの冷静沈着な父ではない鬼の形相をしていた。それ以来、僕は母を「母さん」としか呼ばなくなった。あれが今までで一番怖い父だった。母に関してはいらつく程の天然で僕はいつも母の言葉にため息をついていた。なぜこんな事もわからないのか、ボケてるのかと思う程だった。だがこの二人は変えのきかないたった二人の両親である事に変わりはなかった。妹も手のかかるおてんばだが一緒にいて、それと言って苦ではなかった。そして僕は懐かしさの中ご飯を終え、再び部屋に戻った。
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