自由

7/12
前へ
/12ページ
次へ
「そんなところで何をしてらっしゃるの?」 教会から出てきた年配の婦人がバルジャンを覗き込む。 「見てのとおり、寝てまさ」 バルジャンは投げやりに答えた。 「なぜ宿屋に泊まらないのです?」 婦人は優しく問いかける。 「あいにく金がないもんでね」 「私もあまり持ち合わせていないの。でも、あるだけあなたに差し上げますわ」 婦人は小銭入れを取り出し、バルジャンの手に銀貨を2枚握らせた。 「これだけでは宿屋には泊まれませんわね。でも、頼めば泊まらせてもらえるかもしれませんわ」 「もう何軒も回ったよ。どこも門前払いだ」 「あの教会にはもう行かれました?」 「いいや」 「あそこでしたら、一晩泊めてもらえるかもしれませんよ。行ってごらんなさい」 バルジャンはもらった銀貨を握りしめる。 「『求めよ、さらば与えられん』聖書の一節です」 婦人は微笑み、去っていった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加