第一章

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話は一週間前に遡る。 「ねえゆーり、これ良くない?」 秋音ーー羽雁芽秋音(ハカリメアキネ)が、一冊のパンフレットを振りかざし、ベッドからずり落ちてきた。ていうか、人の寝床に無遠慮に寝そべんないでよね…。 秋音の手にあったのは、吹雪をバックにポツンと佇むログハウスが描かれた、旅行パンフだった。 「ん~?<冬の雪山に癒しあり。雪に覆われたログハウスで、のんびりとした時を過ごしませんか>…ね。へえ、Y県っつったら、割と近所じゃん。」 「でしょ?食事も美味しいって書いたるし、ほら、オーナーさん、凄い良い人なんだって。」 利用者のコメント欄には、『オッソブーコ、絶品でした!』、『部屋の雰囲気良くて、また行きたいと思う』、『オーナーさんの笑顔が素敵でした』などなど…。ふーん、絶賛だよ。 「ねー、此処にしようよ、冬休みに行くの。値段も張らないしさ。」 「そうだねー、さっきからずっと迷ってるしねー…。此処にしちゃおっか…。」 冬休みに旅行に行くぞ計画を練りに、秋音が部屋に押し入ってきたのは、三時頃。で、現在時刻は六時半…。こんなに時間がかかったのは、秋音のせいだ(私の挙げる候補を、気に入らないの一言で、次々と切り捨てていった) 「じゃ、そゆことでね。バイバーイ!」 山のようなパンフをまとめて、秋音は帰っていった。…出来れば、持ってきたジュースの缶とかお菓子の袋とか、片付けてって欲しかったけれど。
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