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――キシリ、キシリ――
寒い早朝、小さな雨人形の動く音が和室に響く。
雨人形はまだ少し暗い空を縁側の外に立って見ていた。
「どうした?縁夜」
縁夜と呼ばれた雨人形は振り返り
「あら、起きましたか。右京」
振り返る縁夜の後ろに、右京と呼ばれた若い僧が立っていた。
「なるほど、妙に朝から寒いわけだ」
少し暗い空を見て右京は頷く。
「……あ、右京。何か降ってる」
縁夜は空から降ってくる[何か]を見て、右京に顔を向けた。
「あぁ、縁夜は初めて見たんだったな。あれは雪だ。」
「雪?」
縁夜は首を傾げる仕草をし、空から降ってくる雪を手で受けとめた。
「あ……」
手で受けとめた瞬間に雪は瞬く間に溶けてしまい、縁夜は不思議がっている。
「雪は小さな氷だ。すぐに溶けるよ」
手のひらと睨めっこをしている縁夜を見ながら、右京は縁側から外に降りる。
「雪は何故降るの?」
降りてきた右京に、縁夜はまるで人の子供のように聞く。
「さぁな……ただ…」
「ただ?」
空を見上げる右京は目を細目ながら
「雪は何かを思い出させるために降っているかもな」
「何かを?」
「あぁ」
会話が一通り終わり、右京は家に入りながら
「中に入るぞ、風邪をひいてしまう」
「あ、はい」
キシキシと音をたてながら、縁夜は右京の背中を追い掛けていく。
それは空がまだ少し暗い朝だった。
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