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それでも、
急に動くと腰の痛みや頭痛が酷い。
自然と両手を拡げてバランスを取りながら、姿勢は低く前屈みになっていく。
状況は違えど、軽いデジャブに思わず苦笑いが浮かぶ。
たいした距離ではないのだが、一歩進むごとに自然と愚痴が漏れる。
「ドアの、向こうが、家、だったら、楽、なの、にっと、」
やっとの思いで、スライドドアの押し棒に手が届き、一応の目的地までたどり着く。
声こそ出ないが、卑屈な笑顔が浮かぶ。
10歩もない距離が、果てしなく、遠く、感じた。
体重を預けるようにドアを開けながら、室外へなだれ込むように一歩を踏み出す。
「うぁっ」
自分が予想していたよりも、低い床に反射的に声が出た。
咄嗟に、転ばないように身構え身体を強張らせる。
濃い茶色の木の床が、
体重を受けて ギシリッ と軋んだ。
鼻孔をくすぐる、
嗅ぎ馴れた古臭い匂いが、
そっと 頬をゆるやかに撫でる。
ここは?
2階の自室を出たすぐの見慣れた廊下だった。
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