『プロローグ』

2/5
前へ
/127ページ
次へ
「んん……」  ベッドの中、寝返りを打った僕は、指先に触れる柔らかな感覚と、瞼越しに揺れる強い日の光で目が覚めた。  7月16日  今年もこの日がやって来た。  重い眼瞼をこすり、覚醒しきらない頭で暫く天井を見つめていた。伸びをして体を起こすと、右手の先にウィルのしなやかな毛並みが、かすかに触れた。 「おはよう、ウィル」  そう言いながら頭を撫でてやると、ウィルはまるで、床をはたく様に尻尾をパタパタさせ、喉を鳴らしながら前脚で僕にのしかかってくる。 「こら、ウィル。ベッドに乗ってきちゃダメだよ」  ウィルは残念そうに一度鳴くと、ベッドから降り、鼻先で扉を押し開けて部屋を出て行った。 「朝ご飯にしよう。新聞を取ってきてくれるかい?」 ウォン  彼はとても賢い。扉の向こうからは、こちらの言葉を理解したような元気な鳴き声と、足早に階段を降りる音が聞こえた。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加