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潮風が香り、遥か遠くに水平線が一望できる霊園。石畳の階段を1段、また1段と登る度に、重ねられた卒塔婆や、供えられた色とりどりの花が僕の視界の端をチラつく。
ウィルは僕の少し先を右に左に駆け回り、金色の毛並みはその度に流れるように光っていた。
半ばまで登り切り、脇に延びた細い道を進むと、さっきまで落ち着き無く走っていたウィルが、キチンと目的の場所の前で、前脚を抱えるようにしてうずくまっていた。
「えらいね、ウィル」
彼は毎年こうして、足取りの進まない僕の先を走り、恐らく誰よりも早く彼女の、前の主人の命日を弔っている。
ウィルの見つめる先には、周りと見比べても一際立派な墓石がそびえ立つ。
『楠家之墓』
彼女はここに眠っている。
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