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カーテンの合間からは、暖かい春の日差しと、小鳥たちのさえずりが入ってくる。誰が開けたのかは知らないが、寝起きの僕には煩わしい事この上ない。
この病院に入院して3日目。相変わらず、慣れないベッドでの眠りは快適とは言えず、見知らぬ人に囲まれて目覚めるというのも、どうも落ち着かない。
連日の寝不足も相まってやや不機嫌な僕は、看護婦たちが検温やらなんやらで病室を回って来る前に、松葉杖をつき『隠れ家』に向かっていた。
大仰に『隠れ家』と言っても、そんなに大した物じゃない。中庭にある桜の木を中央に、垣根で周りを囲んであるだけのちょっとしたスペースだ。
でもこの『隠れ家』は便利なもので、僕の入院している病棟からはそう遠くなく、草むらに寝っころがれば、垣根が看護婦たちのいる受付から僕の姿を隠してくれる。僕にとってちょっとした秘密基地のようなものだ。
『隠れ家』に着いた僕を待っていたのは、太陽の日差しを浴びて、薄紅色に輝く桜の花と、柔らかな草のベッド。
垣根の切れ間から体を差し込み、松葉杖を傍らに放り、芝に横になる。見上げると、桜の花びらの合間から漏れる鮮やかな光が、眩く僕の視界に揺れた。
目を瞑ると、夜の寝不足と春の陽気も手伝い、僕の意識は何の抵抗も見せず、すぐに夢の世界へと引き込まれて行った。
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