第3章─普通すぎる日常

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悲鳴も出なかった。 せっかく喉元まで出かった声を態々飲み下す。 紅い糸だ。 紅い…糸。 よぎる悪夢。 黒い兎が 小指を突きだし ニコッと笑う。 あの優しそうでいて 底知れない闇を持つ笑顔で… 「おい!!亜里兎!!!!」 耳元で聞こえた自分の名前に体をビクンと反応させた…。 肩口には心底心配そうな織彦の顔。 次に視線を小指に向けるとあの奇怪な糸も激痛も嘘の様に無くなっていた。 ただ、今の出来事を嘘だと認めさせないように 小指には 赤いく 細い 痕が痛々しく残っていた。 『何も 考えるな。』 脳が命令する。 それが今一番自分が傷付かない最善の方法だから。 だけど それは無理ってもんだろう… それを許さないんだ。 この痕が…。 ───── ─── 俺は学校に着いてからも あの悪夢の事で頭がいっぱいだった。 せっかく先生が用意してくれた進路を考える時間も、俺の頭は あの暗い夜道の出来事でいっぱいだ。 (…どうしよう……) いや。どうしようも無いですけどね。 (あいつ…言ってたよな) 『これからも刺客が来る。…もれなく周りの人も…』 俺が考えた所で 無駄なのは重々承知している。 だけど、考えてしまうんだから仕方ない。 結局この日 俺は 残り少ない学生の本分を果たさずに終わろうとしていた。 ─*放課後*─ …… 「また、こんな時間かよ…;」 節電の為とはいえ 生徒が残ってるうちは 廊下の電気を付けておいてほしいもんだ。 (けっこう 怖いんだよ。) とぼとぼ という効果音がよく似合う様子で俺は暗い廊下を生徒玄関目指して歩いていた。 生徒達の煩い声が無いと 学校って本当に静かな建物なんだと染々おもう。 また、性懲りもなく 進路指導の先生は あれこれ職場を勧めてくる。 まぁ、有難いっちゃあ 有難いんだけども 今の俺に なにを話しても すみませんが上の空です。 だけど、先生って生物は 本当に話を聞かない。 いや、偏見だろうけどさ。例外だって、もちろん有るけど…今回の場合は、だ。 ─────*1時間ほど前* ─────… ───… 授業が終わると半強制で俺と数人の生徒は指導室へ連行された。
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