第4章─兎の穴に墜ちる

4/9

944人が本棚に入れています
本棚に追加
/159ページ
俺がそれを呆うけて見てると、ルーペが『テメェ早く使えや!』とでも言うように俺の頬を自らでペチペチと攻撃してきたので、俺はハッ!としてルーペを握った。 まぁ、どんな原理で出てきたのかはわからないけど…出てきてしまったもんは仕方がないので、俺はおとなしくなったルーペを使ってさっきのラベルを見にかかった。 「………えーと…」 ……………あー… 「……えーと……;」 ……………あー… いや… あの… 「いや…商品名なのかも」 小さなビンにはタプタプと液体が入っていた。 んでラベルには……… 『わたしを飲んでV』 ……無駄にピンク。 なんかビンからは、いかがわしい匂いしかしない。 俺は持っていたビンとルーペを一度テーブルの上に戻した。 横を見ると立派な扉がある。ウチの学校のドアや我が家のドアとは比べ物にならない。 「こんなん前に見たことあるなー」 あれだ。昔姉に付き合わされて観てたネズミ印しのお姫様が出てくる話。 その話には大体こんな扉が出てくる。 お城…お屋敷…パーティー会場……。 物語の主人公がその扉をくぐると、80%の確率でなにかしら起こる。 3次元みたいに朝自分の部屋のドアを開けて普通にリビングに朝食を食べる展開は許されていない。 その扉が今、俺の目の前にドンっとあるんだ。 この扉を開ければ 俺の物語も変わるんだろうか? 不意に自分の手を見ると小指に複数の赤い線が付いている。 そして、扉を見直した。 きっと このまま ここで グチグチやっていても なんにも変わらない。 だけど……… 「…なんなんだよ… どうなってんだよ… 俺は就職活動で忙しいし…明日も学校あるし… 卒業課題だって終わってねぇし… 検定あるし… 明日は頭髪検査あるのに染めたばっかだし…」 ここにきて最近の不可思議な出来事に対する鬱憤が流れ出てきた。 所詮凡人は自分のリミットを越える出来事には対応できないんだ。 「……夢くらいまともなの見させろよ!!!」 俺が叫んだ瞬間だった。 そいつは突然現れた。 まるでさっきのルーペみたいに。 だけど当然のように其処にいた。 「アリト。 扉を開けないんですか?」
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

944人が本棚に入れています
本棚に追加