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一陣の風が耳元をザッと過ぎたと思うと次の瞬間に体がフワリと浮かんでいた。
それが 持ち上げられているのだと気付いたのは、憎らしくも俺を軽々と持ち上げた本人が口を開いた時だった。
「ところでお二方。
お聞きしたい事があってお呼び申し上げたのですが、本題に入っても宜しいですか?」
くそ兎。もとい黒兎様は幼児に訊ねるにしては凄く優しくない口調だった。
というか冷たいだろ!
もう少し優しく話せよ!
そして何故俺を持ち上げる?!!
今や大分下の位置に居る二人は兎を見上げると一瞬ゾッとするような…射殺すような目付きになったが、直ぐに可愛いらしい幼児の顔に戻った。
「なんじゃ。兎…
大事に囲っておかぬと逃げてしまいそうで恐ろしいのかや?」
「クックック…。
哀れよのぉ。何がそんなに恐いのやら…。」「アリトが可哀想ではないか。こんな輩に好かれてしまって…。」
「見てごらん左の。
もう引き返せない所まで来ておる。」
「あぁ…右の。
あな口惜しや…。我らが見守っておればこのような事にはさせぬものを…」
「あのお方の考えられる事じゃ。我らが口を挟む事あたわず。
所詮あのお方にとっては、せんなき事なのやもしれぬがの…」
「宣い事は以上で宜しいですか?」
兎が苛々した口調で噛み付くように聞く。
俺を抱き上げる手がその度に肌に食い込んで痛い。
だけど、なんだか怒鳴るにも怒鳴れない雰囲気だった。
いったい何の話をしているのか俺にはわからないし…。
かと言って説明を求める事も許されないだろう。
空気が針の様に突き刺さる。
(此処には…いたくないな「駄目だよ!アリト!」
急に肩を掴まれてびっくりした。
横を見ると心配そうな顔な猫がいる。
「駄目だ、アリト。君が望んだらその通りになってしまうから…。
今放れてしまうと…」
そういえばビョウラは人の心が読めるんだっけ。いや、俺の心が読み易いンだっけ?
俺の考えを途中で遮った猫の行動も、俺を持ち上げてる兎の行動も…どちらも意図がまるで掴めないのだが、一つわかる事は『俺の為だ』という事。
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