第1章─ベルが鳴る

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「……いたぃ」 弱った乙女のように 俺が殴った頬を抑えて コンクリートに座り込む変質者。 … いゃ。俺は悪くない。 この後目の前の男が殴られた頬を抑えて某ロボットアニメの主人公のようなセリフを言ってこの場を和ませてくれたりすると、ホント有難い。 その位 気まずい。 俺は感じなくてもいい罪悪感でいっぱいだ。 なにせ 人を殴ったのは俺の人生初だから。 殴った俺の手だって痛い。だけど目の前の男に刺された時の方が絶望的に痛かった。痛いなんてもんじゃなかった。 だから俺は強気に出る。 「…そりゃ痛いだろ。 痛いように殴ったし。」 嘘だ。『痛いように殴った』って、殴った事のない人間がそんなパンチの調節できる訳ない。 感情のままに振るったら、それが相手にとって痛かっただけだ。 「…アリト。痛いです。 ……こんなに愛しているのに………やっぱり殺して…」 男の口からボソボソと不吉な言葉が聞こえてくるが聞こえないフリをして話を進める事にした。 普通ならば、自分を殺そうとした奴となんて話もしたくないし、俺だってこのまま一目散に交番に走って走って助けを求めたかった。 だけど、俺って人間は弱虫でチキンハートのくせに『好奇心は猫をも殺す』を地でいく人間だったらしい。 この男の事が 気になって 気になって 仕方がなくなってしまったんだから。 俺の見たことが無いような世界が… 誰も知らない出来事が… 寂れた俺の世界では魅力的すぎたんだ。 * なんで こんな事になったのか? 知るか。 こっちが聞きたい。 あの時 こうすれば… ああすれば… なんてのは 結局 結果が出てから起きる事柄で 人生ってのは コレの繰り返しで成っているんだ。 だから 俺は 繰り返すんだろう。 その度に 俺が一度死ぬはずだった 今日の日の月を思い出して 「あぁ、 なんでこんな事に…」 って、うなだれる。 だけど、世界は動きだした。 奴の手をとってしまったから。 幕は 開いたんだ。 俺の 耳の奥で 開幕のベルが鳴った。 †to be continue…
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