白髪の人形

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濡れた白髪から水を飛ばしながら首を横に振る。   「言えないのか?」   首を傾げる曖昧な反応に桜も首を傾げる。   「思い、出せない」   申し訳なさそうに呟いた。桜は、追究しようともせずに白髪の頭を撫でる。   「そうか、なら代わりな名前を考えるか」   「騎士って書いてナイトちゃんなんとどう?」   話に入れたおばさんの第一声に、桜は苦虫を噛んだような顔をした。   「……お前は何かあるか?」   「サクラ」   明るく笑って言うが、桜が首を横に振る。   「俺とかぶるからダメだ。白髪だからシロでいいんじゃないか?」   「犬じゃないわよ、人の名前よ、それも女の子」   「ババアにだけは言われたくないな」   両者の間で火花が散る。   「サ、クラ」   呼ばれて視線を向けると、大粒の涙をポタポタ落とす白髪に驚く。   「だから名前が被るからダメだ」   否定の動作で何かを伝えようとする白髪を撫でる。   「お前に苦は似合わないな。桜からクをとってサラなんてどうだ? 漢字は後で考えるとして」   「サラ」   白髪は呟き、考えてる間に袖で涙を拭いておく。   「サラ」   また呟いて、泣き顔が一転して笑顔に変わる。   「決まりだな」   サラは笑って頷く。   「やっぱり、大河でタイガーちゃんってどうかしら」   「ババアのネーミングセンスにはがっかりだ」   真顔で言われ、落ち込むおばさんをよそに桜はソファーから腰を上げる。   「部屋に戻るか」   「あら、今日は熱い夜になりそうね」   意味に気付き、鼻で笑ってあしらう。   「サクラ」   「ああ、行くぞ」   サラを連れて、正しくはサラが桜の服を掴んで引っ張る形で、部屋を出る。   錆びた階段を登り、すぐ近くにあったドアを開けて中に入る。   その部屋もまた、建物の見た目とは違い、出来立てのマンションのようで綺麗な玄関だった。   さすがに違和感を覚えたサラは、玄関を出たり入ったりを繰り返して首を捻る。   「ババアの能力『都造り』だ。建物の中にババアの作り出した空間を設置してるから、本来建物の持つ許容量より広いってわけだ」   サラはさらに首を捻る。  
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