罪人(とがびと)

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快適に過ごせるのは春と秋だけで、夏と冬は嫌いだ。   寒さのせいで目が覚めた。   横では俺の布団を強奪し、悠々と使用するサラが眠っていた。   起こしてやろうかと思ったが、あまりに安らかに眠っているので永眠してしまえ。   ベッドから下りて寝室を出る。朝はあったかいお茶に限る。   事前にポットで沸かしたお茶をコップに入れて居間のソファーに腰を置く。   もうすぐ七時になるな。問題児の起床時間だ。   噂をすれば玄関のドアが開いて廊下に複数の足音がする。   「サクラー!」   「サクラー!」   朝から迷惑としか言えない元気の良い声だ。 俺の前に現れたのは、右目が前髪で隠れたリリと、左目が前髪で隠れたルルだった。   「朝っぱらからなんだ」   「昨日どこ行ってたー?」   「行ってたー!」   「仕事だ。いなくなったくらいでいちいち騒ぐな」   ルルとリリは俺の仕事のことは知らない。教えたところで意味をなさないなら、教える必要がないからだ。   「アタシに無断で仕事行くなー」   「行くなー!」   アタシと言うほうが右目の隠れたリリで、ワタシと言うほうが左目の隠れたルルだったりする。   ちなみに双子の女で、取り柄は元気しかない。   「すまなかったから声のボリュームを下げてくれ」   「約束しろー」   「しなさいー」   「はいはい」   指切りしといてこの場をやり過ごす。子供の利点は単純なところだな。   「アタシもお茶」   「ワタシもお茶」   朝はよく来るもんだから俺の朝お茶習慣が染み付いてしまった。自分達で準備するから手間入らず。   「熱いから気を付けろよ」   「わかってるー」   「るー」   熱いお茶をチビチビ飲みながら体を暖める。   「サクラ、新聞」   「気が利くな。ありがとよ」   俺にとって朝刊は貴重な情報源の一つになっている。役立つかどうかは毎日変わる。   題名を見て、私的に気になる記事もなく『罪人』が関わっていそうな記事もない。   新聞の最後にある四コマを見て、新聞は価値を失う。   「ふぅ……」   「むー」   「どうした、ルル?」   「お腹空きましたー」   「ねー」   朝ご飯を作ってやってもいいが、現在の冷蔵庫の中身は無に等しい。早急に補充しなければならない。
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