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「冷蔵庫が空だ。悪いがババアに食わせてもらえ」
「わかったー、ルルー」
「わかりましたー、えいっ!」
ルルが床に手を当てた瞬間、床に穴が空いた。その穴に入るルルに続いてリリも穴に入る。
穴はすぐに消えてなくなる。
「相変わらず無茶苦茶な能力だ」
ルルとリリは、少々一般の『罪人』となるプロセスが特殊だが『罪人』には違いない。
はっきり言ってあの二人の能力は最強の部類に入る。俺の能力も最強の部類だと自負してはいるが、あの二人の能力は反則だ。
ルルは分解能力、リリは構成能力。いろいろ制約はあるが、全てに対して有効な能力である。
あの二人とまともに戦えば俺も死ぬかもしれないが、二人に戦う意思がないから結果がどうなるかは分からない。
ドタドタとまた廊下から騒がしい足音がした。
廊下を見ると涙目のサラが、椅子に座る俺に勢いよくタックルを敢行してきやがった。
サラの細い肩がみぞおちに入る。
「ぐぐ……」
人の気も知らずに、首に手を回して胸に顔を埋めるタックル娘。
闘牛としてスペインに空輸してやろうか。
「サクラ、一人、ヤー」
「……ああ、なるほど」
どうやら一人が嫌いらしい。俺の知ったことではないが。
「ヤ――!!」
耳元で叫ばれ、聴覚がキーンとなった。
「わかったからとりあえず離れろ」
無理に引き離して隣に座らせるも腕にしがみついてくる。
サラも『罪人』ではあるが、能力は治癒系としか分からない。
補足だが『罪人』は、心の闇に飲まれた者のこと。何かしら理由があって『罪人』になる。
サラの場合は居たところが殺させ屋……容易に想像がついてしまう。
「泣くな泣くな。幸せが逃げるぞ」
「?」
いまいち日本語が通じてないらしい。
全く分からないよりはマシと考えよう。
「サクラ」
「ん?」
「サクラ」
「なんだ?」
「サクラ」
「だからなんだ」
自己満足したのかサラが笑う。何に満足したのか分からない一方的な会話のキャッチボールに俺は困惑するしかなかった。
サラは俺のことなど完全スルーして楽しげに俺の手で遊ぶ。
昨日今日の様子から考える限りは知的障害者ではない。
ただ知らないだけ。無垢で無知な女ということか。
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