罪人(とがびと)

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「せ、先輩! 横暴って言葉をご存じですか!?」   「指……平気か?」   「い、今更心配されても! と言いますか触らないでくだっ! あっあー! やりますから、今すぐやりますから!」   心配してやれば文句を言う。ホント変わった奴だ。   「り、リクエストとかあります?」   「女が着ているような服」   「か、勝手に作りますよ?」   正吾が集中を始めると場の雰囲気が変わる。 両手を胸の前で合わせ、念仏を唱えるように呟く。 服の上からでも分かる脂肪、それがボキュとへこむ。   「正吾の能力は、等価によるイメージの具現。主に、二次元のイメージを三次元に変換する」   簡単に言えば、アニメに出てくる備品や服を現実に具現させる。 それにかかる等価とは、重さ。具現する物の重さだけ、なんでもいいから重さを消費しなければならない。   「ダウンロード!」   そう言って手を叩くと正吾が煙に包まれる。 その煙を手で払ってやると正吾が出てきた。 手には大量の服が抱えられてる。   「こ、こんだけあれば足りますか? その新人は」   「ああ、すまないな」   「い、いいんですよ。先輩の頼みなら」   「その先輩って呼び方やめろ。鳥肌がたつ」   服を受け取り、礼儀を持って一礼。 踵を返して部屋に戻ろうとするが、サラが動かない。   「どうした?」   「ショウゴ、変わった」   「ああ」   正吾が等価によく使うのが脂肪。 そのおかげでさっきまでパンパンだった服はぶかぶかになり、バンダナも顔を通り抜けて首にある。   「それが正吾の能力だ。ほら、行くぞ」   サラも正吾に礼をして俺の隣にくると服を覗いてくる。   「サラの服だ。気に入ったのがあればそれを着て買い物に行くぞ」   「わたし、の」   一番上の服を取ると、広げてどんな服か見て笑顔を浮かべる。 新入居者には正吾から服がプレゼントされる。それがアイツの役目、衣類を買い揃えると高いからな。 だがあまりに消極的な姿勢と趣味のせいでババアは、正吾をまともな人とカウントしない。 まぁ、あんな服をババアに渡した代価がそれだけで済んでよかった。 いい奴なんだけど自業自得だから仕方ない。
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