白髪の人形

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「名前だよ。ないのか?」   困ったようにオロオロする白髪女にため息をつく。   どこからかパトカーのサイレンが響き、独特な音が近付いてくる。   「細かいことは後にするか」   白髪女の肩を抱き、足をすくい上げる。お姫様抱っこだ。   急ぎ足で廊下を抜け、階段を駆け登り、屋上に出る。   月明かりの下で、赤いランプがいくつも点灯していた。   桜は、完全に包囲されていることに気付く。   「流した情報が不味かったか」   反省しながら、助走をつけて隣の建物に跳び移る。   それを繰り返し、警察の包囲網を抜け、野次馬の輪を悠々と抜ける。   「量も必要だが質も高めてもらいたいもんだ」   あっさり逃げられるような連携しか取れない警察に幻滅しながら、また別の建物に跳び移る。   そこから先は民家ばかりの住宅街で、桜はビルから飛び降りる。   足を骨折してもおかしくない高さだが桜は、塀から降りたように柔らかく着地した。   見られてないか確認して道に出る。   今の彼は、素足でコートの中は粗末な服を着て目立つ白髪をした、女を抱えている。   平穏な生活のために僅かな目撃者も許してはならない。   人と会うことに気を付けて道を進む。   「すまないな。靴は無いんだ」   視線を落とすと白髪の女と目が合う。   幼い顔をした中学生くらいで、黒く汚れた顔のせいか白髪が目立つ。   「もうすぐ着くから我慢してくれ」   彼女は我慢などしてはいないが、桜はどうにも気になってしょうがなかった。   駆け足で、第三者から見れば全速力走っているように見える速度で、道を進む。   住宅街の外れ、彩りある建物から地味な色の建物に変わってきた辺りで足を止める。   「ここが俺の家だ」   その先には、昭和からあるのかと訊きたくなるほどに古い二階建てのアパートがあった。   鉄でできた階段はあちこちがかけ、建物自体も傷みが酷い。   「見た目は、まぁ、格安アパートだけど中は凄いんだ」   スタスタとアパート一階、敷地の入り口から一番近い部屋の前に来ると、ドアを蹴る。   その度にドアは軋み、壊れてしまうのかと思ってしまう。   「はいはいはい、桜ちゃん」   ドアがスゥーと開いて、中から紫色のパンチパーマのおばさんが出てきた。   ふくよかな顔で笑う。
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