52人が本棚に入れています
本棚に追加
忍び足で居間に戻ると、ソファーの横を抜けて反対側の部屋に入る。
そこは綺麗に保たれた台所であった。
コップを取って冷蔵庫から出したお茶を入れて、一度飲み干してからまたお茶を入れて冷蔵庫を閉める。
居間に戻り、ソファーに腰を下ろしてやっと一息をつく。
「たくっ、気分で構造を変えるなってんだ」
「あら、悪かったわね」
玄関のほうからおばさんが居間に入ってくる。
にこやかに笑みを浮かべ、桜と向かい合うソファーに腰を下ろす。
「ババア、言いたいことが分かるな?」
「もちろんよ。今回の件についてでしょ? 簡単に説明すると桜ちゃんが潰したのは『殺させ屋』なの」
「なんだそれは?」
「あの子を好きなようにもて遊び、最後には殺させるのよ」
「……なるほど。他人を見下す奴が持つ願望の吐き口がアイツってことか」
桜は眉をひそめて額に手を当てる。
「ええ、偉くなれば価値観も変わってしまう。見下した人と一緒にいるだけでも苦痛になる人を探し出し、高額な料金であの子を殺させるのよ」
「ちっ、ゲス共が。もっと苦しめておくべきだった」
「あの子以外に『罪人』はいた?」
「いや、確認はしてない。関係者らしい小人ならいたが……まて、あの子ってアイツのことだよな」
「ええ、そうよ」
桜はお茶を一口、口に含んで顎に手を持ってくる。
冷たさを味わってから喉に流す。
「どうしてこんな商売が警察の目をかいくぐって成立していられると思う?」
「いや、分からないな。いくら機密にしたって、殺すために人を集めて来なければならない。そうなれば嫌でも行方不明者が出る」
「桜ちゃんの言ったプロセスを省けるとしたらどう?」
「……つまりなんだ。アイツは高い再生能力を持ってるってことか?」
おばさんが頷き、桜は頭を抱えて考える。
何度も凌辱された挙げ句に殺される。そんな地獄で得た金で至福を肥やす奴に怒りを覚えた。
「胸くそ悪い」
「そうね……桜ちゃんがあの子を連れて来なくても、いずれは此所に来ていたわ」
「そうか」
残りのお茶を口に流し込み、桜はやりきれない思いでソファーを殴る。
「あら、物に当たるのはよくないわ」
最初のコメントを投稿しよう!