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「この空間内ならいくら破損しても直せるだろう。それが国家認定のババアの能力だからな」
「私が言ってるのは気持ちの問題よ。直せるからって壊すのはよくないわ」
「……すまない」
座ったまま頭を下げる。
おばさんは何も言わず、目を閉じる。
桜は、僅かな揺れを足で感じた。
揺れが収まるとおばさんが目を開け、額の汗を拭う。
「どこの構造を変えた?」
「桜ちゃんの部屋よ」
「何でだよ」
「もちろん、あの子の面倒を桜ちゃんがみるからよ」
「全力で拒否する」
頭を抱えてうなだれる。
おばさんは、ホッホッホッとワザとらしい笑いで桜の意見を拒否した。
桜が睨むと、おばさんは優しい目でそれを受ける。
「まともな『罪人』は、私、桜ちゃん、ルルとリリだけ。その内、しっかりしてるのは、私と桜ちゃんの二人だけなのよ」
「……」
桜は、おばさんの言いたいことを察して無言になる。
おばさんがどんなことをしているかを良く知っているからこそ、桜は『罪人』を殺す。
「わかった。ある程度は面倒をみよう」
「桜ちゃんには命を賭けて守ってもらってるのに、ごめんなさいね」
「気にするな。代わりに住む場所、生活ができる」
「助かるわ」
玄関のほうから足音がする。桜は横目で見る。
オロオロ顔が桜を見付けた途端に笑顔に変わり、駆け寄ってくる。
黙って座る桜の横に腰かけると、桜の腕の後ろに隠れてしまう。
「あらあら」
愉快に笑うおばさんとは対照的に桜はため息をつく。
「サクラ」
「喋れたか。喋らないから心配したぞ」
濡れた白髪が縦に揺れる。
「お前の面倒は俺がみることになった。嫌なら今言っておけ」
首を横に振って、腕を強く握る。
「わかった。まずは名前を教えてくれ、そうしないと会話が進まない」
否定も肯定もなく、顔を下に向けてしまう。
「名前、ないのか?」
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