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「あ」
「どうしたの?」
かれこれ30分話した後、大志はあることを思い出した。
「そういや今日辺りから一人で住む所を決めるんだった」
そう、いくら同じ県内とはいえ、大学はそこそこ遠いし、何よりいままで暮らしていた所から離れての一人暮らしを満喫したい。そこは、若さゆえの好奇心である。
そしたら、沙羅が何か閃いたかのように提案してきた。
「そう。なら、私の家で住むと良い」
「え? 家って……」
疑問が浮かぶ。彼女の家と言ったらこの城だろうし……
「ここじゃない。人間界にも住居はある」
沙羅がそれを察して付け加えた。
「あ、そうなんだ」
大志はすんなり納得――できない。
彼女と同じ所に住んで、同じ大学に通って、そしていつも一緒にいるというのは、何かその――非常にまずい。
(第一、親が認めないんじゃないのか?)
アーサーの顔が思い浮かんだ。あの親バカな人なら、絶対に許さないだろう。
「で、でもさその……若い二人が一緒に住むのは…お義父さん許さないだろ?」
「大丈夫。お父様は了承してる」
「マジで?」
沙羅はコクリと頷いた。
驚天動地だ。あのパパなら、絶対娘はやらん! みたいな事を言うに違いないと……。
「あとは杉浦君のご両親だけ」
「う~ん」
あの夫婦ならなんて言うだろう? 初めて会った息子の恋人の家に住むなんて言ったらさぞや驚くだろう。
本当に何と言うかわからない。頑張りなさい、と言って賛成してくれるのだろうか? それともまだ早い、なんてもっともなことを言って反対するのだろうか?
(でも、許可してくれたらバラ色の日々が……)
仕舞には横縞な妄想に浸ってしまう。
「とりあえず、戻って話してみるよ」
大志が早速行こうと立ち上がって言った。
「待って。私も行く。一度挨拶した方が良い」
「え……それ、マズくない?」
沙羅の言い出した事にビクッとした。
確かにマズい。何せ、家に帰って来た時は一人だったのだ。
「大丈夫。ちゃんとしていればきっと認めてくれる」
「上手く行くか……?」
まだ踏ん切りがつけないでいた。やっぱり、まだ不安なのだ。
「じゃあ、着替えるから杉浦君は先に部屋のゲートで待ってて」
「お、おう……」
そう言って沙羅は立ち上がった。
こういう時の彼女の実行力には驚かされる。
そのまま立ち去ろうとして、あっと小さく声を上げて振り向いた。
「呼び方、大志でいいから」
そう言うと、沙羅の顔が一瞬だけ綻んだ。
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