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「ただいま」
大志が高校から自転車で十分のところにある自宅に帰ると、何やら居間の方が騒がしい。またか、と理由はわかりながらも居間を覗きこんだ。
「あ、これも良く撮れてる!」
「だろう? さすが新しいデジカメなだけはあるな、うん」
「ちーがーうー! 良いのはこーちゃんの腕よ!」
「由美さん……」
「こーちゃん……」
そこには先ほどの卒業式の写真を批評しあってから、人目をはばからずキスの体勢になっている父、弘一(こういち)と母、由美(ゆみ)がいた。
「た・だ・い・ま」
改めて言うと、二人は面白い程にビックリしてこちらを振り返る。
「あ、あらたーくん……お、お帰り」
「い、今現像しようと思ってたとこなんだ」
焦っている二人を見て、ため息をつく。この夫婦は、作家の弘一がいつも家にいるにも関わらず、年中無休でラブラブなのである。その片割れである由美は、どこか子供じみた趣味で、弘一以外の人間では付き合ってられなくなる不思議な思考の持ち主なのである。
こんな珍しい夫婦を置いて、二階にある自分の部屋へ入る。
部屋の中にはベッド、机、本棚があり、テレビとテレビゲームなど娯楽用品もおいてある、普通よりは片付いている部屋だ。
カバンをベッドの上に放り、学ランズボンの右ポケットにあるものを取り出し、見つめる。
(誰かに見られないような所って……思い出の品って訳じゃないよな)
水晶を手の中で弄びながらふと思う。そして、言われた通りに誰かに見られない所を頭の中で探した。
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