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「…キー!…キ‥ヨシ!ーー秋吉!」
悠は空を眺めている少年の背後から、大きな声で叫んだ。
秋吉と呼ばれた少年は、驚いた様に体が跳ねたあと、体育座りをしていた姿勢を崩し、後ろを振り返った。
「なんや、ハルやないの。どないしたん?」
秋吉はニッコリ笑うと首を傾げる。それと同時に、膝上に広げてあったスケッチブックを音を立てて勢いよく閉じた。
「なんや。じゃないよ。また外の世界に出て‥怒られるよ?」
悠は不満そうに呟く。彼の少し枯れた声からするに、どうやら何度も大声で叫んだのだろう。
悠は決して目立ちたがるような性格ではない。むしろ誰かをたて、自分は裏で黙々とような所謂“縁の下の力持ち”といったタイプだ。
そんな悠が、秋吉の様子を見に、人目につくことを承知で仕方なく大声を出していたのだろう。しかしどうしたことだ。秋吉は何度呼ばれても気付かないではないか。やっと気付いたのは、悠がそろそろ投げやりになって大声で叫び始めた、十五度目の時だった。
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