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彼の長い指の先が首筋をなぞる。
「壊してしまいたい位、可愛いひと。」
と彼が言う。
首に回した両手の指先の、十の点に力がこもる。
「いっそ壊してください」と、少し顔をしかめて私は言った。
しばしの躊躇い(ためらい)の後、指がそっと離れた。
「…止めた。…壊してしまうのはカンタンだけど、一度壊したらもう、可愛いあなたに触れられなくなるから」
殺人未遂チックな発言など一切無かったかのように微笑む彼。
天使の純白の羽根が広がるような笑顔。
「うん。」
何回でもキスしてあげるよ。
私達は今生きているんだから。
私があなたを愛し、あなたが私を愛し、二人で愛を確かめるいろんな過程の中で、二人はいつも新しい発見をする。
今も、さっきまであなたが望むなら命なんてどうでもいいと思っていた私が、
もう今では
この人を愛した私が
この人の生きた証として残るなら
躰が朽ち果てるまで生き続けたいと切に願ってる。
あなたもそうなんでしょう?
出会った頃は空気のように希薄な自意識しか持たなかったのに、
今は目の前で起きる一つ一つの現象を噛み締め、胸に刻むように生きている。
私の首筋に残った内出血の痕を
唇で辿りながら。
たくさん、何かを感じてね。
たくさん、思い出を作ってね。
いつか存在が消える時が来ても
きっと何かは残る筈だから。
私がずっとそばにいるから。その、瞬間まで。
(終)
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