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冷たい風が、あたしの体を通りぬける
ねぇ…待ってて、今から行くよ?
2人で住んでたあの家から見えるビルの屋上
何もないその先端に、今あたしは、立っている
下にいる人がとても小さく見える
目を閉じれば…
車の通る音
人の声…
町のざわめきが聞こえてくる
何も変わらず過ぎていく日常…
でも…あなたはあたしの前からいなくなってしまった
あなたは末期の癌でずっと入院していた
数日前
「もう今夜が山です」と医者に言われた…
「お前なら大丈夫…俺がいなくなっても、きっと強く生きれる…だから、俺を追って死ぬなんていうんじゃねぇよ」
って…あなたは涙でぐちゃぐちゃになったあたしの顔を撫でて微笑んだ
あたしは、あなたの手を握り締め、嗚咽して、もう声さえ出せなかった
ただ、あなたの言葉に小さく頷いたよね
それから、あなたは眠るように…死んでしまった
強く……強く生きれるって、あなたは言ったよね?
でも…無理だよ…
朝、目覚めて…隣りにあなたがいない…
いつも…あたしに向けてくれた笑顔がどこにもない
部屋中…探し回った…寝室…キッチン…リビング…トイレ…お風呂場…ベランダ…
ドアを開けて、
「どうした?そんなに慌てて」
そう言っていつもの笑顔を見せて?
どうしてどこにもいないの…
帰って来てよ…
今にも「ただいま」って帰ってくるような気がするのに
会いたいよ…
鼻のあたりが、熱くなり、涙が頬を伝い、下に落ちていく
あぁ~あ
また泣き虫だなって言われちゃうな…
冷たい、コンクリートに足をつけ、後ろのフェンスに寄り掛かる
不思議と怖くないなぁ
深く呼吸をする
―――死ぬなんていうんじゃねぇよ―――
あなたの声が聞こえてきたような気がした
でもね…あなたがいたから頑張ってこれた…強く生きれた…だから、あなたがいないとあたしは幸せになれないよ…
何もない空間に一歩踏み出した
体が俯せに倒れていく
強い風圧を体に受ける
その瞬間、あたしは、あなたとの約束を破った
いつの間にか、騒がしい音が聞こえなくなっている
あなたは、怒ったりしないかな?
何もない真っ白な空間
遠くに、優しく微笑むあなたが見える
やっと会えた
ねえ?
「もう会いたくなったのか?甘えん坊だなぁ」
そう言って、優しくあたしを抱き締めて?
ずっと…あなたの側にいたいの…愛してる
end...
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