パンツとアイツのドーナツ事情

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よく行くミスドがある。 いつ行っても客が少なく空いているのだ。 パンツはいい年したメンズのくせして 甘いものを食べながらお茶したりするのが好きなのだ。 そしてそこにいつもいる店員がいる。 幸薄そうな男の店員だ。 パンツがそのミスドに行く時は なぜか高確率で彼が出勤している。 声は小さいし 注文は一度じゃ聞き取ってくれないし お釣りを渡す手なんかプルプル震えてるんだ。 ある時なんか店に入ってレジの前に行ったら案の定 彼がいて口がモゴモゴしていた。 「あ…ぉあらっしゃいもぇ。おごぉう。」 あきらかにドーナツを丸ごと口に入れていた。 勤務中につまみ食いしたらだめだよ。 驚くほどごまかせてないよ。 まぁそんな彼なので 会う度に愛着が湧く なんてことはもちろん無く 苛立ちが募るだけである。 こないだなんか そりゃあひどかったんだ。 フレンチクルーラーを頼んだら 片辺潰れて「D」の形になったのを出された。 他にもあったじゃねぇかよ!! 何でコレをチョイスしたんだよ!! 何かのメッセージかよ!! Dってなんだよ!! Doughnuts(ドーナツ)のDかよ!! と、ちょっとイラっとしたのだが 心は海より広いので 「まぁいいか」で許したのだ。 しかし次の瞬間、 「カフェオレおかわりいかがでしょうか!!!?」 いつの間にか真横に立ってた彼に 驚くほど大きな声で聞かれた。 てゆうか…近っ!! 近いよこの人!! 声も大きいし 近いし カフェオレはもうよかったし とにかく不快だったので 手を突きだし 「あ…いいです。」 と言った。 断ったのにカップいっぱいに注がれた。 「結構です。」と言うべきだったか。 トクトクとカフェオレが注がれている時間は ほんの2、3秒だったのだろう。 しかし、その時のパンツには無限のように感じたのだ。 そんな彼をあのミスドで見かけなくなって 半年が過ぎた。 理由は何となくわかる。 おそらくつまみ食いがバレたのだろう。 そりゃあね、あんな食い方してりゃね…。 今、彼はどうしているだろうか。 何か嫌な目に遭ってればいいのに と思ってしまう自分がいる。 心配しなくても あれだけ不器用なんだから 何が何でもうまくいかない人生だろう。 おっといけない。 他人の不幸を望んでしまった。 心は海より広いはずなのに。
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