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「それで、血はいつ渡せばいいの?」
壱の睨みを無視して
劉さんに告げた言葉に、
横でピクリと、壱が反応したのが何となく分かった。
「それは…」
「俺は飲まねえ」
劉の言葉を遮り、強い口調で壱が言った。
私も劉さんも、
向き合っていた目を壱に向ける。
それにそっぽを向いて屋根の上にしゃがみ込んでいる壱。
「いーち。抗えないよ、って。この17年飲まずに居られたことが、奇跡なんだから」
「え…」
17年?
血を飲んだことがない?
吸血鬼なのに、
名前の通り血を吸う鬼なのに。
そんなことしてたら
死んでしまうんじゃ……。
「あっと…。呼び出しだ。ちょっと行ってくるから。仲良くするんだよ、二人共」
私が疑問を口にする前に
満月に浮かぶ1つの影を見ながらそう言って、
劉さんは鮮やかに姿を消してしまった。
と言うよりは
まるで、夜空のカーテンをその身に纏うかのように、その闇の中に溶け込んでいった。
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