†御伽話†

4/9
3593人が本棚に入れています
本棚に追加
/249ページ
手書きのその古びた御伽話の本を、ゆっくり閉じる。 よく、母が私に読んでくれた、世界でただ一つの御伽話だ。 我が家に伝わる家宝なんだとか聞かされたけれど、冗談半分だ。 『どうして、吸血鬼は噛んでしまったの?』 私は、よく母にそう聞いたものだった。 その言葉に母はいつも少し悲しそうにこう答えた。 『きっと一緒に居てくれる人が欲しかったのよ』 何千年も生きられる吸血鬼。 独りは、悲しくて。 『私は、絶対に一緒に居てあげるもん!』 そう言って、私はポロポロ涙を流した。 だけど、今は━━……。     私が、独りぼっち。 .
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!