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手書きのその古びた御伽話の本を、ゆっくり閉じる。
よく、母が私に読んでくれた、世界でただ一つの御伽話だ。
我が家に伝わる家宝なんだとか聞かされたけれど、冗談半分だ。
『どうして、吸血鬼は噛んでしまったの?』
私は、よく母にそう聞いたものだった。
その言葉に母はいつも少し悲しそうにこう答えた。
『きっと一緒に居てくれる人が欲しかったのよ』
何千年も生きられる吸血鬼。
独りは、悲しくて。
『私は、絶対に一緒に居てあげるもん!』
そう言って、私はポロポロ涙を流した。
だけど、今は━━……。
私が、独りぼっち。
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