†加速†

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10月。 閑散(カンサン)という言葉が似合う ゆっくりとした朗らかな時期。 しかし、それは私にとっては 嵐の前の静けさ以外の 何者でもないのだ。 色々あって忘れかけていたが… リル強奪戦はあと1ヶ月まで 刻が迫っていた。 それまでに私は 決めなければならない。 奪うのか。 与えるのか。 「壱ー」 リビングの机でテレビを見ながら くつろぐ壱に声をかける。 返事が返ってこない。 私は首を傾げてから、水道を止め 手を拭きながらリビングを覗いた。 「いーちー…っと」 すると良くみれば、机に突っ伏して寝ていた。 最近、トレーニングに凄く力を入れているから、疲れているんだろう。 最近壱は、夕食を終えると 直ぐに寝る体制に入る。 私は、壱の斜め前に座って、 そのたおやかな寝顔を盗み見た。 眉間のシワが消えている壱の顔。 金髪の髪が、顔に少しかかって綺麗だ。 って、綺麗なんて、男の人に失礼かな。 「見てんじゃねーよ」 そんな声がして、眉間にキュッと 皺が浮かんでしまった。 どうやら起きたらしい。 勿体無い。 「いやあ…綺麗だなーと思って」 そう言ってニッコリ笑うと 壱は頭を上げて、私と逆方向に視線を向け 「金、とるぞ」 などと非道なことを言った。 「誉めたのにっ!褒め称えたのにっ!」 私はそう反抗してから数回、 壱の背中を叩いてやった。 壱はそれを不快に感じることもなく、 これ以上そんな会話を続ける必要がないと感じたのか もしくは照れ隠しで 「んで、何だよ」 視線を逸らしたまま言う。 「あ、お風呂。もうそろそろ入れるかなって」 「風呂……入る」 壱はそう言うと立ち上がり 少しフラつきながら 風呂場へと歩いて行った。 しかし、しばらくしてから 「てっめぇ~!!何してやがる!」   と言う壱の叫び声ともとれる わめき声と、 何かが壁にぶつかる音がして 私は慌てて風呂場へ走り出した。  
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