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「先程も言ったが、お前の様な輩は大勢いた」
「………」
「だがここまでしつこい奴は初めて見た」
勢いよく彼──東雲は顔を上げた。
それは何かに期待するような、光を見付けたような表情だった。
「第一、半端な覚悟しかない奴はファングに襲われた時点でわざわざ危険に身を晒したいとは思わん」
「あ……」
深紅の瞳が彼を見た。
まるで新しい玩具を与えられた子供の様な眼で。
「好きにしろ。着いて来たくば来るがいい。ただし命の保証は一切しない」
「ありがとうございます、師匠!!」
がば、と効果音がつく位勢いよく東雲は頭を下げた。
深紅の瞳は相変わらず面白そうな視線を向けてはいたが、周囲に目を遣るとすぐに口を開いた。
「………魔獣共の動きが活発になってきたな。また襲われたくなかったら顔を上げて走れ」
「へ……?」
ソレが指差す先にはギラギラと光る魔獣の双貌がある。
隙有らば何時でも襲いかかって来るだろう。
彼はまた襲われては堪らない、と後退りを始めた。
嫌な汗を流しながら、であるが。
「来た」
「ぎゃ────!!」
「静かにしろ。奴を刺激してどうする」
「………スイマセン」
くるりと向きを変えて青ざめた東雲が走り出す。
ソレも走り始めたのを見た魔獣は当然追い掛けて来た………が、深紅の瞳に射抜かれ追うことを諦めた様だった。
二人は木々の間を抜け、森の更に深い所へと入っていった。
その後、その周囲で二人を見た者はいない。
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