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中心部から逃げる人々の流れに逆らうモノがあった。
しかし人々は自分の事に必死でそれに気付かない。
魔獣は肉を食っていた。
商人が商品として表に出していた肉を嗅ぎ付け、食っていた。
そこにソレはいた。
肩の辺りでくすんだシルバーを泳がせ、魔獣に近付いていく。
「そこを退け」
深紅の瞳が漆黒の毛並を射抜く。
「邪魔だ」
殺気を少々含んだ瞳が、揺れる尻尾を射抜く。
それでも尚、獣は反応しない。
ソレは溜め息をつき、歩みを進める。
そしてその揺れる尻尾を力の限り、踏み付けた。
「ゴァァァァ!?」
本当にソレに気付いていなかったのだろう。
獣は奇声(元からだが)を発してソレから逃れようとするが無駄な足掻きであった。
逆にぐりぐりと踏みにじられ、更に奇声を発するハメになってしまっていた。
「もう一度だけ言おう。そこを退け」
足を上げ尻尾を解放した瞬間、文字通り獣は尻尾を巻いて逃げて行った。
それからソレは何事も無かったかのように、物音一つしない街を通り過ぎていった。
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