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「アイツ!」
狙われたのは、亜紀に倒された『赤神』の面々。
亜紀は、旧式戦闘機から飛び降りた。
倒れたり、翼が折れたり、密集する旧式戦闘機の森の中、どこからか鮮血を噴く音、骨が捻れる音が鳴り響く。
「やめろ『狂犬』!」
ズルズル、と引きずり回す音。
「やめるよ。もういらない」
地面に突き刺さる旧式戦闘機の翼の影から手が出てくる。
手が出てくる。
手が出てくる。
手が出てくる。
四本の手が支えを探すように宙をさ迷う。
「ニ対一から五対ニになった。今度は負けない」
姿を現した『狂犬』は、背中にそれぞれ二本の腕と両肩から二本ずつ、蜘蛛の足と同じ数の足をつけていた。
「さっきの女の子が来るまで待ってあげるよ」
「きょ――けぇぇぇエえぇん!!」
伊織を待たずに亜紀は飛び出した。
ナイフを逆手持ちして、右側に回り込む。
真正面からでは分が悪いと判断しての行動であった。
『狂犬』の目は見逃さず、右側の腕五本を独立させて動かす。
最初の攻撃を鋭利な爪で防ぎ、残りの手で亜紀を殴る。
亜紀が防御に使える手は一つ。防御出来るのは一つだけ。
だが亜紀は持ち前の運動神経をみせた。
「ふっ!」
右上からきた拳首を、左手で流して、右上からきていた拳に当てる。
残りの二本には殴られることになったが、殴られる方向に体を動かしていたおかげで充分なほどダメージをくらわなかった。
「……」
攻防を見下ろす伊織の赤い瞳は、亜紀の成長を見逃さなかった。
「助けにいかないのかしら、中条さん」
「死にそうになったときに助ければいい。私の役目は、貴方と『狂犬』のどっちにでも対応できるようにすること」
「ふふ、私は最後まで戦わないわ。中条さんと杙奈の相手は聡よ」
手に持っていた鈴を鳴らす。
反応がない。
もう一度鳴らす。
反応がない。
「……どうゆう仕掛けかはわからないけど聡は使えないようね。まぁいいわ、手駒はまだあるもの」
疲れ果てて『狂犬』との戦いに参加していなかった杙奈を見て、鈴を鳴らす。
杙奈は、疲れた目で綾子を見上げるだけで何もしようとしない。
「な、なんで私の幻術が通用しないのよ! 杙奈、何をしたって言うのよ!」
杙奈は、耳に被さっていた髪をかきあげて綾子に見せた。
耳から流れ出る血。
「生憎だけどぉ、鼓膜を破ってるからほとんど聴こえないよぉ~」
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