最終章

30/42
4726人が本棚に入れています
本棚に追加
/407ページ
「アイツ!」   狙われたのは、亜紀に倒された『赤神』の面々。 亜紀は、旧式戦闘機から飛び降りた。 倒れたり、翼が折れたり、密集する旧式戦闘機の森の中、どこからか鮮血を噴く音、骨が捻れる音が鳴り響く。   「やめろ『狂犬』!」   ズルズル、と引きずり回す音。   「やめるよ。もういらない」   地面に突き刺さる旧式戦闘機の翼の影から手が出てくる。 手が出てくる。 手が出てくる。 手が出てくる。 四本の手が支えを探すように宙をさ迷う。   「ニ対一から五対ニになった。今度は負けない」   姿を現した『狂犬』は、背中にそれぞれ二本の腕と両肩から二本ずつ、蜘蛛の足と同じ数の足をつけていた。   「さっきの女の子が来るまで待ってあげるよ」   「きょ――けぇぇぇエえぇん!!」   伊織を待たずに亜紀は飛び出した。 ナイフを逆手持ちして、右側に回り込む。 真正面からでは分が悪いと判断しての行動であった。 『狂犬』の目は見逃さず、右側の腕五本を独立させて動かす。 最初の攻撃を鋭利な爪で防ぎ、残りの手で亜紀を殴る。 亜紀が防御に使える手は一つ。防御出来るのは一つだけ。 だが亜紀は持ち前の運動神経をみせた。   「ふっ!」   右上からきた拳首を、左手で流して、右上からきていた拳に当てる。 残りの二本には殴られることになったが、殴られる方向に体を動かしていたおかげで充分なほどダメージをくらわなかった。   「……」   攻防を見下ろす伊織の赤い瞳は、亜紀の成長を見逃さなかった。   「助けにいかないのかしら、中条さん」   「死にそうになったときに助ければいい。私の役目は、貴方と『狂犬』のどっちにでも対応できるようにすること」   「ふふ、私は最後まで戦わないわ。中条さんと杙奈の相手は聡よ」   手に持っていた鈴を鳴らす。 反応がない。 もう一度鳴らす。 反応がない。   「……どうゆう仕掛けかはわからないけど聡は使えないようね。まぁいいわ、手駒はまだあるもの」   疲れ果てて『狂犬』との戦いに参加していなかった杙奈を見て、鈴を鳴らす。 杙奈は、疲れた目で綾子を見上げるだけで何もしようとしない。   「な、なんで私の幻術が通用しないのよ! 杙奈、何をしたって言うのよ!」   杙奈は、耳に被さっていた髪をかきあげて綾子に見せた。 耳から流れ出る血。   「生憎だけどぉ、鼓膜を破ってるからほとんど聴こえないよぉ~」
/407ページ

最初のコメントを投稿しよう!