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亜紀は一言謝りたくて街をさ迷っていた。
適当に細い道に入り、吸い込まれるように人気のない場所に迷いこんでいた。シャッターの降りた店や、営業前のスナックなど大人の雰囲気を漂わせる。
「この街にもこんな場合があるんだな」
道が数通り違うだけで変わる世界に驚く。
どこに繋がっているのか分からない道を曲がり、迷路に迷いこんだ状態になり始めた。
何度目か曲がったところでばったりと人に出会した。
お互い驚いて一旦停止する。
「あ、すみません」
立ちはだかる男は何も言わず動こうともしない。
「あの……」
瓶底のようなレンズごしに冷めた目が亜紀を見続ける。
中太りで背は亜紀より数センチ低い程度、せっかくのロングコートが不釣り合いだった。
「ぶふっボクチンの道を塞ぐな」
ロングコートのポケットを抜け出た手が、亜紀の首を掴み持ち上げた。
「あっぐっ!」
亜紀は部活動に所属していないが身体能力は高くスポーツ万能だ。
がっちりとした体格には相応の重さがあるにも関わらず持ち上げられ、そうなるまで自分が何をされたのかすら気付かなかった。
喉を潰さんとするばかりの力に息が絶たれ、助けを呼ぶどころか反撃にすら転じれない。
「ぶふっボクチンの邪魔をした罰は死」
(だ、誰か!)
男は亜紀の重さを無視するかのように、壁に叩きつけた。
その動作を何度も繰り返す。
壁には血がしたたるほど付着するが、なおいっそう亜紀を壁に叩き付けた。
いつしか苦しみを感じなくなり、意識がぼやけていた。
死ぬ恐怖すら分からず、人生に幕が下ろされる。
ズシュッ、
「ぶふっ………ぶふふふふふふふ!?」
落とされた人形のように亜紀は地面に落ちた。
「ブホオォォォオぉお!!」
野生生物の雄叫びが路地に響く。
呼吸をする度、肺がフル稼働で酸素を取り込み、心臓が全身に血を運ぶ。
意識があるだけでも充分亜紀は凄かった。
亜紀は倒れたまま、雄叫びのあるほうを横目で見る。
自分を殺そうとした男が狂ったように地面を転がっていた。
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