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目を凝らして転がり回る男を見る。
押さえてる腕から血が流れ、袖部分は赤く染まり、暴れるせいで血があちこちに飛び散っていた。
「ブフゥッ! その顔忘れないからな!」
親の敵を見るような目付きで亜紀のほうを睨み、すぐに汗で服が張り付いた背を見せて逃げた。
「ぅ……ぅう……」
痛む頭に触れると刺激が走り、手は血がついていた。
下半身は無くなったように動かず、上半身だけで体を起こそうとするもそこまでの力が入らない。
「生きてる?」
聞き間違うはずのない声のほうを向く力すらない。
そんな彼の体を起こし引きずって壁にもたせる。
「伊……織……さ……」
怒ってどこかに行ってしまった伊織が目の前にいた。
顔や服には血がつき、怪我をしているようにも見えるがそれが返り血であることに気づく。
「運が良いのやら悪いのやら、まさか殺人犯と出会っちゃうなんて」
困った顔をしてため息を吐き、視点の定まらない亜紀の頬をペチペチと叩く。
「生きててよかった……寝てもいいけど後でちゃんと起きてよ?」
ポケットからだした携帯の左上を二回、右下を一回、最後にコールボタンを押す。
「すいません。友達が襲われて頭から血を流しているんですすぐ来てください! 場所は駅近くにある表通りの裏です!」
用件だけ伝えて電話を切り、上に放り投げる。
落ちてきた携帯を銀色が一閃、地面に当たった衝撃で携帯が綺麗に両断された。
「こんなの持ってるから一緒に病院に行けない」
笑いながら太いナイフを見せる。
持ち手に血がべっとりとついて袖を汚していた。
「けど必ずお見舞いに行くから……ごめんね」
そう言って伊織はその場から離れる。
名残惜しく振り返るが、すぐ前を向いて走る。
また会えるように今は走り続けた。
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