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凄い筋肉痛で動けないんだ、と目で語るが伊織さんは見るどころか座って寝てた。
これで諦めるわけにはいかない、顔の隅々まで舐めまわすがごとくに凝視してると伊織さんの目が開いた。 またとないチャンスにさっきと同じ言葉を目に込めて送る。
「あ、前髪切ったんだけど似合う……かな?」
似合うけど今言いたいのはそれじゃない!
余談だけど今更前髪が短くなったことに気付いた。
「あ、あんまり見ないで欲しい」
ソッポを向いてしまった。アイコンタクトがどれほど難しいか痛感した。やはり双子とか、幼馴染みクラスじゃなきゃ不可能な技だったのか。
「そうそう、体の調子はどう? 無理な回復で全身筋肉痛なんじゃないの?」
最初にそれ心配しろよ!
なんかアイコンタクトしてたオレが馬鹿みたいじゃん。
「昨日のこと覚えてる?」
言われて昨日を思い出したが、返り討ちにあって死にかけた。
でも生きてるってことは伊織さんが助けてくれたのか。
「殺人犯には動けないだけの傷を負わせたんだけど逃げたみたい。残念だけどあのフロアにいた人間は全員……でも警報鳴らしたのは亜紀君でしょ? そのおかげで沢山の命が救えた」
オレのせいで沢山の人が死んだんだ、命をかけて他の命を救うのは当たり前だ。
「責任……感じないでね。亜紀君は悪くないんだよ」
無理な相談だ。自分のせいで誰かが死んだのに落ち着く余裕なんてない。
「逃がした責任は私がとる。居場所が分かり次第殺る」
横暴だ。アイツと最初に関わりを持ったのはオレだ。伊織さんにこそ責任はない。
言い返してやりたいけど筋肉痛でまともに喋ることもできない。
「たぶん私の血の効果はなくなってるはすだから明日には動けるようになるはず。今はゆっくり休んで」
今は休むしかないのか。仕方なく目をつむると深い眠りにつけた気がした。
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