第一章・―或る夜の依頼―

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「……かと言って」  止める、という訳にもいかないのだ。  何でも良いから、自分がこの世界で生きていたという存在証明が欲しかった。  日の目を見られなくとも、そのために死ねるのならば、本望だと思っている。  人間を殺し続けるという、異常な環境に生きる隆は何時しか、そんな考えを持ちながら生きるようになっていた。 「だが」  何も残さずに死ぬのが嫌だった。  隆の中には常に、そんな矛盾した思いが交錯している。  死にたくないという思い、死んでも良いという思い。  心の中は、複雑だった。  だが今は生きてさえいれば良いと、いつも強引に、その考えに持っていく事にしている。
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