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隆がますます用心して何も言わないのを見て、男は更に続けた。
「わ、私の娘を、君の手で、護ってくれないか。た、のむ。楓を、むす、めを」
男、務は懇願するような瞳で隆を見詰める。しかし隆の方は、それどころではなかった。
務の腕を振り払うと、鋭く睨んで言う。
「そんな頼みを、引き受ける訳がない」
人間を殺す事ばかり繰り返してきた隆は、今更人の命を護れる訳がないと男に告げた。
隆にとっては皮肉な話だ。
人間の血で両手を染めあげてきた隆は、自分に何かが出来るとは思っていない。
「今の俺には、人の命を護る資格なんてない」
自嘲気味にそう呟くが、務はそれでも諦めようとしなかった。
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