第一章・―或る夜の依頼―

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 隆がますます用心して何も言わないのを見て、男は更に続けた。 「わ、私の娘を、君の手で、護ってくれないか。た、のむ。楓を、むす、めを」  男、務は懇願するような瞳で隆を見詰める。しかし隆の方は、それどころではなかった。  務の腕を振り払うと、鋭く睨んで言う。 「そんな頼みを、引き受ける訳がない」  人間を殺す事ばかり繰り返してきた隆は、今更人の命を護れる訳がないと男に告げた。  隆にとっては皮肉な話だ。  人間の血で両手を染めあげてきた隆は、自分に何かが出来るとは思っていない。 「今の俺には、人の命を護る資格なんてない」  自嘲気味にそう呟くが、務はそれでも諦めようとしなかった。
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