第一章・―或る夜の依頼―

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「無理を、承知で頼んでい、るんだ。わた、しはもう……。だから、お願いだ。こ、これを……」  務が半ば無理矢理手渡したモノは、一枚のフロッピーディスクだった。 「これを、持って、娘のと、ころへ。たの、む。もう時間が……」  務はそれだけ言うと、隆の腕の中で力尽きた。  引き受けるとも、断るとも言わない内に死なれてしまった隆は、どうして良いか分からずに、それでも最期の慈悲のように、務の瞳をとじさせる。  それから小さくため息を吐き、手の平に残ったそれを眺めた。 「……これは」  渡されたフロッピーディスクが何を意味するのか、隆には全く分からなかった。
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