第一章・―或る夜の依頼―

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 冷たい風の吹きすさぶ中、一人の男が暗闇をまとうように立っていた。  男は煙草に火を点けると、そのまま何かから逃げるように歩き始める。  その前に、一つの影が立ちはだかった。 「何だ、お前。邪魔だ、退いてくれ」  男が押し殺した声で呟くが、その影は微動だにしない、次第に男が苛つき始める。 「おい、聞こえているのか!? そこを退けと……」 「秋月智也(あきづきともや)だな?」  突然放たれた声のせいで、男は最後まで言葉を発する事が出来無かった。 「……お前、お前は一体」  男は名前を言い当てられた事で、かなり狼狽えているようだったが、相手はそんな事には構わずに、 「質問に答えろ」  とだけ続けた。
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