第一章・―或る夜の依頼―

20/21
前へ
/210ページ
次へ
「今度は何だ」  裏の世界で女殺し屋がいる事は、そう珍しい事ではない。  それ以上女のペースに流されないように、女の言葉を一切無視して、用件を簡潔に告げる。  女はそれにも気分を害さずに、隆に向かって言う。 「坊や、そのフロッピーを返して頂けるかしら? それは私達にとって、とても大切なものなの」 「嫌だ、と言ったら」  ゆっくりとナイフを構えながら隆が言うと、女は指を自分の前に差し出して、低い声で笑う。 「そんなもので、私を倒せると思って? それとも坊や、貴方もゲームに参加したいのかしら」 「ゲーム……だと?」 「そう、ゲームよ。貴方はあそこのクズに言われた通り、娘を全力で護ってあげるの。それを私達が、邪魔をするのよ」  完全に状況を楽しんでいる風の女を見て、小さく舌打ちすると無言で女を睨んだ。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1581人が本棚に入れています
本棚に追加