第八章

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 その後、朝迄眠らせてもらえない事も無く、狸の毛皮を売って、一攫千金を得た訳でもなく、普通に荷物整理をして、二人と一匹で、旅館を出た。社の近くに行くと人集りの山ができている。  「なんだろう?狸と宗。お前ら、何かしたか?」  肩に乗っかった狸が、俺と宗しか聞こえない声で、つぶやいた。  「ワシと坊が何かしたと言うより、小僧がやったと言うべきじゃな。」  「えっ?!俺?」  「まあ、滝に近づいてからの、お楽しみじゃな。」  狸がにんまりと笑った。  「……お楽しみ?」  まあ、悪い事ではないのだろう。  「教授。見えてきましたよ。」  宗が滝の方を指差す。そちらを覗くと……。  「うむ。見事なものじゃな。」  滝の周囲の木々や花々が、一斉に芽吹いている!梅・桜・椿・桃・ツツジ・橘・桐・イチイ・柊・菫・水仙・菖蒲・桔梗・露草などなど。四季に関係無く、色とりどりに咲き乱れていた。  「すげえ。」  それしか言葉がでてこない。  「凄い?これ、全部教授がやったんですよ?」  誇らしげに宗が言った。  「昨日、滝壺でみずちを誕生させましたよね?あの時に使った力が、影響してるんですよ。……教授は、春神、ありとあらゆる生命を目覚めさせる、神様ですからね。」  ………ああ、そうなんだ。その時、何故か、今までの不可不思議な出来事が、現実なんだと、初めて理解できた。
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