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「……狸。ニュージー・ランドに何かあるのか?」
旅館に戻り、荷物を持って駅に向かいながら、ずーと黙っていた。狸に聞いた。
「…まあ。有ると言えば有る。すまんが、これ以上話せんのじゃ。……すまんのう。」
「ん?良いよ。人には言えない事、一つや二つあるだろ。気にすんな。」
狸が人かどうか怪しいが。
「教授!」
「宗。どうだった?」
¨教授と老師は先に駅に向かってください。私は村の人達の、記憶を消しに行きますから。¨
と、言われて宗と俺達は、少しの間、別行動を取っていた。
「みずちの記憶はそのままで、教授がみずちと会話をした所だけ、消してきました。」
「……村の人達は、そのまま?」
「はい。今日は、暖かいですし、風邪はひかないと思いますよ?帰ったら、何も言わずに去った事、お詫びの手紙でも送りましょうか。」
「…そうするか。手紙は俺が書くよ。」
何となく、村の方を振り向く。たった、三・四日滞在しただけなのに、俺に取って生涯忘れられない、村になった。狸と出会い、宗の本当の姿を知り、そして自分の正体を教えられた。
「又、来ます。」
誰も居ないのは分かっていたが、思わず言葉がでた。
「そうじゃな。」
狸が相づちを打ってくれた。
「教授。」
「ん?」
宗を見ると、いつもと同じ、優しい暖かな笑顔で手を差し伸べてくれた。
「さあ。みんな、教授のお帰りを待っていますよ。帰りましょう。私達の家へ!」
差し伸べられた、手を取り、俺は頷いた。
「そうだな。変わった土産も有るしな。」
「なぬ?変わったじゃなく。可愛いじゃろ!」
狸が俺に文句を言う。
「……帰ろう。俺達の家へ。」
村の新たなる守り神を誕生させた、二人と一匹は、白狸村を後にした。
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