第1夜【マスター】

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街の中からドブ川がなくなり、市電が消え、子供の遊ぶ姿が公園の広場から消えた。 変わり続けることがいいことなのかい? 変わらない良さもあるはずだろう? 大人の遊び場であるべき、チャンドラーバーの経営者が変わってしまった。 以前の常連客たちは、行き場を無くすと案じていたが、新たな経営者が引き継ぎ、バーが残ったことに、皆安堵した。 頭髪が薄くなったマスターーの代わりに、白髪混じりの短髪の無口な五十歳くらいの新たな店の新オーナーは、いずれこの店を取り壊し、カフェレストランでもやるのではないかと噂していた。 また新しいオーナーは、何かを喋れば、損をするというぐらい無口な男だったので、誰も本音を聞けずにいた。 芽の出ない小説家志望の男は、最近取り残された気分にさせられていた。 無口なマスターを前に、どう話しかけようかと、言葉を色々と探っていた。 この男は、どういう人間かと計りかねながら。 芽の出ない小説家が、今まで推測した結果はこうだ。 「いらっしゃいませ」と店のドアが開くと、答えてくれるから、口が利けないというわけではないらしい。 しかし、客として来て、カウンターのスツールに座ったからには、何かしら気のきいた一言も言えないとは、一体どういう人物なのか。
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