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これなら、端から喋れないとわかっている石の地蔵を前にして、飲んでいる方がよっぽどマシだった。
「段々と寒くなって来たなあ」
「そうか?」
思わず問い返されて、芽の出ない小説家は、眉間に皺を寄せた。
「そうって?他に言うことはないんか?
季節には興味ありませんてっいうのかい?」
「どうだろう?」
そう言って、チラリとこちらを見ると、またつまらなさそうに、グラスを磨き出した。
「あんたは、何をそう黙っているんだい?」
マスターは手を止め頭を少し傾け、芽の出ない小説家を見つめた。
そして、「ふっ」と微笑むと、何も言わずにグラスの洗い物を始めた。
芽の出ない小説家に、少しキツい調子でたずやねられても怒るわけでも、あがらうわけでもなく、逆に言われた言葉に、ただそっと寄り添うといった感じだった。
それは言葉は、時に残酷で、正直であるがゆえに、黙っているといった様子にも思えた。
「ちっ、石の地蔵じゃあるまいし」
そう言って、ジンロックを飲み干すと、カウンターに手をつけ、スツールから立ち上がった。
「帰るよ」
「おい、ジョー。俺はあの女をぶち殺してやった。縛り首なんて、ごめんさ。掴まるもんか、メキシコへ逃げてやる!」
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