第1夜【マスター】

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BGMで流れるジミ・ヘンが、最後の歌詞を熱唱する。 ギターを燃やしたり、歯で弾いたりと、本来の演奏とは違うギミックな演奏の方に目が行きそうだが違う。 リトルウイングや、エンジエルを聴くと、彼の曲のメロディラインの美しくさの本質が見えてくるはずだ。 「ジミヘンが好きかい?」 ふと芽の出ない小説家が、足を止めBGMを聴き入っていると、マスターがそう言ってたずねた。 「ああ。悪いかい?」 マスターが店の奥に入ると、フォークギターを持ってカウンターから出て来た。 ヘイジョーが終わると、BGMを切り、スツールの一つに腰掛けると、タッピングでリトルウイングを弾き始めた。 芽が出ない小説家が、驚いた表情でそれを見つめていると、「もう一杯飲むかい?」とたずねて来た。 「ああ。石の地蔵よりはマシだな」 「済まない」 「謝ることはないさ」 芽の出ない小説家は、少し右の唇の端を持ち上げると笑った。 「先にジンを作るかい?」 「いいや。リトルウイングを弾き終わってからでいい」 そう言って、スツールに座り直した。 今のこの瞬間だけは、どんな言葉も安物臭く感じただろう。 言葉と格闘し続けている芽の出ない小説家は、ふとそんなことを思った。 第1夜 了
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