第一話

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「お母さん。」 勝也は、家で泣いてばかりの母親に話しかけた。 「勝也……どうしたの……?」 「僕……高校に行きたい。」 「……あなた本気で言ってるの……?」 「僕は本気だよ。」 「病院でずっと安静にしてれば少しでも長く生きられるのよ!? 何でわざわざ命を粗末にするの!?」 お母さんの考えていることはよく分かる。 普通の親の考えだろう。 最初からこう言われるのは分かっていたんだ。 「確かに僕だって……出来ることならまだ死にたくない。 このままずっと生きて……色んな夢を叶えたい。 でもそれが無理だって言われた。 だったら僕はどうせあともう少ししか生きられないんなら……少しでも思い出を作って、悔いなく死にたい。」 だから今の思いを伝えたい。 例え叶わなくても。 「勝手な事言わないで。 あなたの命はあなただけのものじゃないのよ!」 お母さんはそれを聞いて泣きながら怒鳴る。 「それじゃあ……僕は夢を見ちゃいけないの……? 僕だって最後に一度くらい……夢見たいよ。」 勝也は泣きながら言う。 「勝也………。」 さっきまで怒鳴り続けてばかりのお母さんは黙って俯いた。 「お願い……お母さん。」 「勝也……あなたは本当にそれで良いの?」 「良いよ……。 だってそれが僕の生きる意味に繋がる気がするから。」 勝也は思ったんだ。病院のベッドで寝続けていても、自分が生きた意味は見つからない。 だから、せめて残された時間くらい精一杯生きよう。 そうすればきっと見つかるから…と。 「なら……私は止めない。 大事な息子の夢を応援するのも親の仕事だから……。」 「お母さんありがとう……。」 とは言ったものの、勝也の母親の気持ちは複雑だった。 今私が勝也を応援するのは、勝也の早死にを応援するのと同じだ……。 確かに勝也が夢を持ってくれたのはうれしいけど、どうしても素直に喜べない。 勝也の母はただ泣き続けた。
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