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「ふぁ~ぁ……」
新入生のために用意されたパイプ椅子の最後列で、雨流蒼葵(うりゅうそうき)は盛大な欠伸を隠そうともせず、お偉方の祝辞を右から左へと聞き流していた。
文武両道を掲げ、一流大学現役合格率は全国でもトップクラスの進学率を誇る。
名門と名高い全寮制男子校、私立誠藍学院高等部の入学式だ。
名門と噂される学校なだけに、入学式は粛々とした雰囲気の中行われている……かと言えば、実はそうでもない。
はっきり言って、新入生のほとんどは中等部からの持ち上がり。
右を向いても左を向いても知った顔が溢れている。
神妙な面持ちで祝辞を聞いているごく僅かな生徒だけが、外部受験の難関を突破してきた優等生たちだった。
大半の内部進学生は、欠伸を噛み殺しているか堂々と居眠りしてるかのどちらかだ。
おまけに、実績だけなら誰にも負けないが面倒嫌いな教師が多い誠藍にはヒステリックな校則など一つもない。
その為、生徒達の髪の色は金銀茶髪にアッシュ系と、何でもありときているからシュクシュクという雰囲気には程遠い。
「ふぁ~………あぁ?」
「蒼葵?どぉしたの?」
本日何度目かの欠伸を途中で中断し、些か間の抜けた声を発した雨流に話し掛けたのは、キラキラと目にも眩しい金髪を無造作に立たせている本間征一朗(ほんませいいちろう)だ。
「あれ、誰?」
周囲を気にすることもなく、無遠慮に伸ばされた雨流の指先の延長線には、一人の生徒の後ろ姿。
「ああ、外部受験組。鷹野叡知(たかのえいち)って言ったかな?全教科満点で外部入試クリアしたって噂の天才君」
「ふぅん。タカノ………ね」
壇上に立つ生徒を見つめ、雨流は口角を吊り上げた。
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